2014年11月29日に開催された MTDDC Meetup TOKYO 2014 から、長谷川恭久さん( @yhassy )の講演メモです。
テーマは、「好みや多数決で決めない デザインとの正しいつきあい方」です。
メモは箇条書きで書いております。
今の私の仕事は「デザインをする前をデザインする」という仕事が多い。
イベントで色々な職種の人が集まるのは、いい機会だと思う。
色々な業種の人が一緒になってデザインを考えるということは、あまり無いのではないか。エンジニアとかウェブ担当者とか。
私も普段はデザイナーがよく集まるセミナーでの出演が多いのが現状、それ以外の職種が集まる機会が少ないのが残念に思ってる。
いまはウェブの制作・開発がすごく難しい時代になっている。なぜなら今は「全国民デザイン評論家時代」になっているから。
「自分はデザインなんて分からないですよ。」とは言いつつも、実際は後からこんな事を言ったり……
- 青ではなく赤のほうがいい。
- インパクト足りない
- すごく使いづらい。
- なんかわかんないけど、なんかちょっと違うんだよねえ。
『ユーザーの声がいいですよー』→みんながみんが「あれがほしい」「これがほしい」「使いづらい」→『では投票にしましょう」……こんなんだとプロジェクトはおかしくなる。
……だからと言って、専門家以外の人の意見を聞かないのはよくない。デザイナー以外の人がデザインを語ろうとするのは、すごく意味がある。そこからじゃないと分からない事はすごくたくさんある。
なので、デザイナー以外の人がデザインを語れる環境を作るのは必要。
(それでもみんなの意見をそのまま取り入れてデザインをする → スケーリングはしません。)
納品した後にデザインが崩れるサイトがある。サイトローンチ後にセンスを持った担当デザイナーがプロジェクトから離れてしまっても、デザインが破綻しないように、メンテナンスができるデザインが必要。
色んな人たちが「同意」ができるデザインの方向性を示さなければならない。
「同意」ができることが重要。
自分の視点、自分のテイストでデザインを語ってしまう傾向がある。でも、このプロジェクトでは(たとえ自分は嫌いでも)正しいと分かる何かが必要。
例えば……「ユーザー的には……」と言ったとしても、そのユーザーって、誰なの?……とか。
だからこそ、まずは議論をするための基盤を作る事。
正しい質問ができてない。「これどうですか?」 ← そういう風に言われたら『自分の感想』を述べるしかない。
理解ができる表現かどうか ≒ 同意ができるかどうか
私的には好きではないけど、このプロジェクトとしては正しいものであるという「同意」が必要。何を見ればその「同意」の基準ができるのか。
議論ができる仕組みを作ることが重要である。
(ここまでの要点)
- 議論の基盤を築いているか。
- 正しい質問をしているか。
- 理解ができる表現かどうか(≒ 同意ができるかどうか)
DESIGN
デザイン(Design)という言葉もいろいろある。
一般的には……
……それぞれが色々な切り口で『デザイン』という言葉を使っている。
例えば、営業の人が『デザインは単なる装飾』と言ったら、ヘタするとデザイナーに求めるオーダーはピクセルを変えるだけの仕事だと見られてしまう。
デザインというものは一体なんなのかというのを組織の中で定義する必要がある。
私の場合は……
みんなで一緒に作るためのデザインというのはどういうものなのかというのを私の場合は意識している。
デザインの定義は人によって違う。だからこそ合わせなければいけない。
葛藤という点が、デザインの中で重要。
葛藤という言葉は健康的ではないように思うが、実は、葛藤というものが無いと、各人が持っているデザインのニュアンスやセンスを意見として表にに出してあげないといけない。
たとえば『20代の若いOL』と言われても、人によってそれぞれ詳細なイメージは違ってくるはず。
人々のイメージを絵や文字にして共有・意見をぶつかり合わせて、ビジネスでのゴールや人間像などを出して、導きだしていく。
デザインで一番難しい部分とは……
皆が正しい意見を言っている。立場が違えば優先順位は異なる。
ありとあらゆる言葉が共有されていない。(家族やごく小さなチームでは問題ない(感覚・ツーカーでもいい))
クライアント関係や大きな組織(10〜20人以上)でのやり取りだと、感覚・ツーカーは通用しなくなる。そこをどう共有していくか。
目的と言葉。当たり前は何もない。
「かわいい」「シンプル」などのキーワードでも、人によって見えているものは違う。それで「デザインどうですか」と言われても感想に違いが出るのは当たり前。
何をもって「シンプル」なのか、人によってはさっぱり分からない場合もあるだろう。
何も共有されていないのに、さあデザインを作ろう!といっても無理がある。
「みんなが同じ感覚を持ってるよね!」というのが間違っている。
- チーム各自の人それぞれの感覚をたくさん出して、デザインアイデアを洗い出し、共有して、良いデザインを作り出していく。
- 基本的にプロジェクトに携わる者は、皆が正しい意見を言っている。
共有するためのツールを誰かが(デザイナー、プロデューサーなど)作る必要がある。
下手をすると……
- 好みやトレンドで決まってしまう。
- エラい人が決める
- センスのあるデザイナーが一人で作る
そうならないために、運営ができる、続けられるデザインを作る必要がある。ちょっとしたニュアンスもきちんと共有する。
What is “Good” — プロジェクトにおける「良い」を決める
チームとしてデザインを考える・進める(・評価をする)
デザインをチームで考える・評価をする。
- A. 前提を整理・共有する
- B. デザインが話せるように工夫をする。
A. 前提を整理・共有する
前提には2種類ある
- 企業・配信者側が考えるゾーン
- 顧客・利用者に抱いてもらいたいもの/ターゲットにしている利用者
それぞれのイメージを共有する
1. 企業・配信者
- キーワードを書き出す
- キーワードについて話し合う
- 選別・グループ分け
- 共感できる言葉を
簡単なワークショップで自分たちの企業が考えているそれぞれの感覚的な言葉をアウトプットしてもらって、共通している言葉・テーマを見つける。
単語・キーワードに込められる想いを社内で共有する。
言葉
- 言葉 → タグラインではなく、ビジョン
- 言葉 → 短くて明確なキーワード
- 言葉 → ニュアンスを共有する
言葉→イメージ→デザイン
デザインのやり取りを経て、初めてパーツデザインの話・デザインガイドラインの話に取りかかれる。
2. 顧客・利用者
そもそも利用者側はどういった人たちなのかということを分析するのも重要。
やり方はいろいろあるが、インタビュー、アクセス解析を通してペルソナをつくるなど。
ペルソナ……4つのセクション
- 動機になるポイント
- 利用シーン
- 解説
- チェックポイント
ペルソナのポイント
- ちょうど良い情報量
- ブランドと合う人間像
- 機能ではなく、ニーズを基に
なるべく利用者視点で「こう考えているだろうね」と考えるようにする。
B. デザインが話せるように工夫する
デザインの話をコントロールするのは、ファシリテーター、議長など、リーダーシップをとる者の役割。
批判と批評は違う。批評をしよう。
作ったものに対して、評価をする。
こういう話し方だと、作った者は傷つく。なるべくこうした言葉は使わない。
- 〜に変えてください (NG)
- 〜のほうが良いです (NG)
- 〜にしてください (NG)
ポイントは……
- 傾聴
- 探索
- 意訳
1. 傾聴
- まず黙って聴いてみる
- すぐに結論に結びつけない
- 話し手の意図や背景を知る
2. 探索
- 聴いた事を深堀りする
- 意図をより明確にする
- 話題をフォーカス
3. 意訳
- 聞いたことを自分なりに解釈
- 複雑かつ誤解を生みそうな話題
- 次の話題へ移る前に
おわりに
「Why?」 : 「なぜ」こうなったのかというところをきちんと理解する。相手を納得させるための理由を提示する。そのためのツールや根拠・データを用意する。
デザインは個人で作る時代ではない。チームで作る時代です。
感想
主な要点としてまとめると、以下のような感じだろうと思いました。
- デザインは個人ではなく、チームで作る。
- デザインを語ってよいのは「デザイナー」だけではない。誰でもよい。
- チーム内でのデザインの意見を可能な限り洗い出して、必要とされるデザインを導き出し、それをチーム全体で共有する。
- そのために必要なアウトプットの仕方にも工夫やルールとかが必要。
とにかく長谷川さんはプレゼンがうまい、ということで、自分は何回も長谷川さんのプレゼンを聴いております。
セミナーや勉強会などのイベントにおいて(日本で)わりと一般的にありがちなプレゼンテーションのパターンは、あらかじめスライドに書いた内容を話していくというスタイルですが、長谷川さんの場合は基本的にトークによるコミュニケーション・語りかけでプレゼンを進めていくスタイル(わりと欧米的・TED的)です。
この日の会場はマイクやプロジェクターなどの設備面のトラブルが多く、長谷川さんもそれに巻き込まれました。しかしながらそういった状態でも長谷川さんは冷静に場つなぎのトークをうまくやっており、さすがだなぁと思っていました。
プロジェクターが表示されない状態が数分続いていたまま話を続けていたのですが、どうやら長谷川さんは事例の紹介をしたかったらしく、そこでは(長谷川さんにしては珍しく)事前に作っていたスライドのビジュアルを見せる必要がありました(公開されたスライドの10〜12枚目についてです)。その際に、「スライドに頼っているプレゼンはよくないですね」とひとこと言ったのが印象的でした。
参考リンク